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2009年08月の記事一覧

 サイドカーをいかに美味く作れるか、それが自分の生涯の目標だと、昔あるバーテンダーが言っていた。最近は、カクテルもあまり飲まなくなったが、サイドカーは真理子の好きなカクテルのひとつだ。決して弱い酒ではないので、女性が好んで飲む類のものではないのかもしれない。真理子は、幸いなことに酒にはかなり強いので、そんな強さをひけらかす意味でも、よく強いカクテルを飲んだ。特に男の前で。


 木目が綺麗に出た杉の木のカウンターの中、ワイングラスを拭きながら、目の前に座ったカップルがサイドカーを飲んでいるのを見て、この女はサイドカーの名前の由来を知っているのだろうか、と真理子は思う。オートバイのサイドカーには女が乗ることが多く、事故が起こればサイドカーの致死率が高い。最近サイドカーのついたバイクなんて見ることがないので、古き良き時代の話であろうが、カミカゼなどという無粋な名前よりはずっと趣味が良いジョークだ。


 真理子はカクテルを作れない。ソーダ割り程度のものは作るが、シェイクやステアが必要なものは、店長が作る。この店は、基本的に店長とバイトの二人で回していて、カクテルも料理も店長が作るので、真理子の仕事は、ビールを出したり、洗いものをしたり、皿を出したり、引いたりといったところだ。多分、ほかの日に出ているバイトの子も同じようなものだろう。


「サイドカーって何が入ってるんですか?」目の前の女が聞いてきた。
「ブランデーとコワントローとレモンジュースかな。強くないですか?」
「口当たりがいいし、大丈夫そう」
 口当たりがいいからこそ危ないのだが、もちろんそんなことは言わない。
「お酒、強いんですね。ほかにも色々試してみてください。店長のカクテルは評判がいいんですよ」
「じゃあ次は何がお勧め?」
「カミカゼなんかどうですか。系統はサイドカーと似てますが、もっとすっきりしていて飲み易い」
「かっこいい名前。じゃあ、それをいただきます。」
「ありがとうございます」
 バックカウンターの裏の厨房にいる店長に、カミカゼの注文を伝える。
「男?女?」店長が聞く。
「女」
「へえ、酒強いのかな」
「そうみたいよ」

「お疲れさん、もう上がっていいよ」 終電が近くなってきたので、店長が声をかけてくれた。
「は〜い」
「でも、今日の女の子、強かったね。男がつぶれてたじゃん」
「普通サイドカーに乗ったほうが死ぬんですけどね」
「へえ?」
「お疲れ様です。お先で〜す」


 駅までの夜道、外苑西通りを早足で歩きながら「あの女、知っていたんだ」と真理子は思う。サイドカーのこともカミカゼのことも。
 男がついてこれなくなるまで飲んで、つぶして、でも別に何か良いことがあるわけでもない。
 そして、また思う。「昔の自分みたいだ」とも。



090806_sidecar.jpgサイドカー


 サイドカーは、ブランデーベースのスタンダード・カクテルで、レモンの酸味とホワイトキュラソーの甘み、ブランデーの香りがバランスした、大人っぽい味のカクテルです。甘い口当たりの割りに、後味がすっきりしているので、ついつい進んでしまいますね。

 ピクニックのサイドカーは、ホワイトキュラソーにコアントローを使っています。ブランデーとのマッチングが更に豊かな香りと甘さを醸し出します。

 スタンダードゆえに、バーテンダーの腕が出るカクテルとも言われますが、是非お試しください。
 「さすが」の味ですよ(笑)


ブランデー 30ml
ホワイトキュラソー 15ml
レモンジュース 15ml



090806_sidecar.jpgカミカゼ


 本文にも書きましたが、趣味の悪い名前ですね。いかにもアメリカ人が考えそうです。

 味は、その名のとおり、非常に切れ味の鋭いウォッカベースのカクテルです。カミカゼには、ウォッカのほかにホワイトキュラソーとライムジュースが入ります。どうでしょう?サイドカーと似ていますよね。ただ、レシピは多様で、ウォッカの分量を多くして、ホワイトキュラソーを少量加えるだけのものから、サイドカーと同じ割合で作るものまであります。また、スピリタスという95度のポーランドウォッカを使う、まさに自爆かというものもあります。

 ピクニックでは、若干鋭めのレシピでお出ししますが、ご要望に応じます。
もちろん、スピリタスもご用意しています。


ウォッカ 40ml
ホワイトキュラソー 10ml
ライムジュース 10ml



第一話「サイドカー / カミカゼ」

第二話「ミモザ / ブラック・ルシアン」

第三話「コスモポリタン / XYZ」

第四話「モヒート / ジャック・ター」

第五話「ブルドック / アフロディテ」

第六話「マティーニ / アムール」