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2010年03月の記事一覧

「いいお店だね。」二次会で隣の席に座った男が話かけてきた。

たしかに素敵なバーだ。

8席ほどのカウンターにソファ席がふたつ。アンティークの家具がほどよくなじんだ

店内はとても心地よくなんだかはじめて来た感じがしない。

今日の幹事役がバーの店長と知合いらしく

オススメといって出された菖蒲色のカクテルはとても美味しかった。

カウンターにはカップルが一組、馴れ合いの仲なのかお互いに携帯電話をずっといじっている。

美穂はふいに一次会のレストランでのことを思いかえした。


タパスとワインが売りのその店で美穂は窓際のテーブル席に坂本を見つけた。

坂本は妹の千里がかなりいれあげている彼氏で、広告代理店に勤めている。

仕事もできるらしく、いつも笑顔を絶やさない好青年なのだが、隙のなさすぎるところが

美穂はあまり好感がもてなかった。

「ここ最近彼が忙しくてぜんぜん逢えていないの」

そんな愚痴をきかされた矢先だったが久しぶりにデートにこぎつけたらしい。

妹は化粧室にでもいったのか、のみかけのマティーニグラスが置いてある。

軽く声でもかけようと立ち上がった瞬間、坂本の隣にもどってきたのは見知らぬ女性だった。

美穂はあわてて席に戻るとそっと様子を伺った。

女性は30代半ばくらいだろうか。

仕立てのよいシンプルなワンピースから

すらりとカタチのいい脚がのぞいている。

肩にふわりとかかった黒髪もエキゾチックな彼女の顔立ちを更に美しく見せていた。

くつろいだ感じからふたりが単なる同僚仲間ではないのが伝わってくる。

女性をエスコートする坂本がいつもり男らしく、素敵にみえて

美穂の胸がチクリと痛んだ。

姉として妹に伝えるべきだろうか.....

あいにく先に店をでたのは彼らだったので美穂に気づいた気配はない。


玄関でブーツを脱ぐと妹の千里がリビングから声をかけてきた。

「おかえり 合コンはどうだった?」

合コンという言葉の響きに少し嫌悪感がともなう。

「予想通りってかんじ。ヨガ休んでいくほどでもなかったよ。」

「オネエももう30過ぎたんだから選り好みしてる場合じゃないよ」

それには答えずに美穂は切りだした。

「今日二次会でいった西麻布のバーがすごくいい感じなの、こんど行ってみない?」

メイクを落とした千里は年齢よりもかなり幼くみえる。

「西麻布のバーって響きがいかにもって感じでいいね。」

あのゆったりとした杉の木のカウンター越しに妹のためのアムールを注文しよう。

愛という名のカクテル。

ビターズの苦みが彼女を少しだけオトナにしてくれるかもしれない。

姉としてできることはそんなこと。

そう、彼の心をとりもどせるかどうかは彼女次第なのだ。



martin.jpg マティーニ



 ご存知カクテルの王様。ジンをベルモットで割って作りますが、ベルモットの量が少ないほど辛口で、しかも辛口であるほど良いとされているカクテルです。
究極のドライではベルモットのビンを眺めながらジンを飲む....なんて小話までありますが、このいかにも男性的なマティーニをスマートにかつ美しく飲むことのできる女性がいたら、かなり魅力的ですね。

ドライジン 45ml
ドライベルモット 15ml



martin.jpg アムール


愛という名にふさわしい情熱的な色彩のカクテル。酒精強化ワインのひとつであるシェリーのスイートと薬草風味のベルモットによるスッキリとした味に、アンゴスチュラ・ビターーの苦味が効いたカクテルです。日本生まれのカクテルであるバンブーはこのレシピに似ていますが、辛口のドライ・シェリーが用いられます。


シェリー 30ml
ドライ・ベルモット 30ml
アンゴスチュラ・ビターズ 2dash
レモンピール 適量


第一話「サイドカー / カミカゼ」

第二話「ミモザ / ブラック・ルシアン」

第三話「コスモポリタン / XYZ」

第四話「モヒート / ジャック・ター」

第五話「ブルドック / アフロディテ」