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カクテルストーリー

 サイドカーをいかに美味く作れるか、それが自分の生涯の目標だと、昔あるバーテンダーが言っていた。最近は、カクテルもあまり飲まなくなったが、サイドカーは真理子の好きなカクテルのひとつだ。決して弱い酒ではないので、女性が好んで飲む類のものではないのかもしれない。真理子は、幸いなことに酒にはかなり強いので、そんな強さをひけらかす意味でも、よく強いカクテルを飲んだ。特に男の前で。


 木目が綺麗に出た杉の木のカウンターの中、ワイングラスを拭きながら、目の前に座ったカップルがサイドカーを飲んでいるのを見て、この女はサイドカーの名前の由来を知っているのだろうか、と真理子は思う。オートバイのサイドカーには女が乗ることが多く、事故が起こればサイドカーの致死率が高い。最近サイドカーのついたバイクなんて見ることがないので、古き良き時代の話であろうが、カミカゼなどという無粋な名前よりはずっと趣味が良いジョークだ。


 真理子はカクテルを作れない。ソーダ割り程度のものは作るが、シェイクやステアが必要なものは、店長が作る。この店は、基本的に店長とバイトの二人で回していて、カクテルも料理も店長が作るので、真理子の仕事は、ビールを出したり、洗いものをしたり、皿を出したり、引いたりといったところだ。多分、ほかの日に出ているバイトの子も同じようなものだろう。


「サイドカーって何が入ってるんですか?」目の前の女が聞いてきた。
「ブランデーとコワントローとレモンジュースかな。強くないですか?」
「口当たりがいいし、大丈夫そう」
 口当たりがいいからこそ危ないのだが、もちろんそんなことは言わない。
「お酒、強いんですね。ほかにも色々試してみてください。店長のカクテルは評判がいいんですよ」
「じゃあ次は何がお勧め?」
「カミカゼなんかどうですか。系統はサイドカーと似てますが、もっとすっきりしていて飲み易い」
「かっこいい名前。じゃあ、それをいただきます。」
「ありがとうございます」
 バックカウンターの裏の厨房にいる店長に、カミカゼの注文を伝える。
「男?女?」店長が聞く。
「女」
「へえ、酒強いのかな」
「そうみたいよ」

「お疲れさん、もう上がっていいよ」 終電が近くなってきたので、店長が声をかけてくれた。
「は〜い」
「でも、今日の女の子、強かったね。男がつぶれてたじゃん」
「普通サイドカーに乗ったほうが死ぬんですけどね」
「へえ?」
「お疲れ様です。お先で〜す」


 駅までの夜道、外苑西通りを早足で歩きながら「あの女、知っていたんだ」と真理子は思う。サイドカーのこともカミカゼのことも。
 男がついてこれなくなるまで飲んで、つぶして、でも別に何か良いことがあるわけでもない。
 そして、また思う。「昔の自分みたいだ」とも。



090806_sidecar.jpgサイドカー


 サイドカーは、ブランデーベースのスタンダード・カクテルで、レモンの酸味とホワイトキュラソーの甘み、ブランデーの香りがバランスした、大人っぽい味のカクテルです。甘い口当たりの割りに、後味がすっきりしているので、ついつい進んでしまいますね。

 ピクニックのサイドカーは、ホワイトキュラソーにコアントローを使っています。ブランデーとのマッチングが更に豊かな香りと甘さを醸し出します。

 スタンダードゆえに、バーテンダーの腕が出るカクテルとも言われますが、是非お試しください。
 「さすが」の味ですよ(笑)


ブランデー 30ml
ホワイトキュラソー 15ml
レモンジュース 15ml



090806_sidecar.jpgカミカゼ


 本文にも書きましたが、趣味の悪い名前ですね。いかにもアメリカ人が考えそうです。

 味は、その名のとおり、非常に切れ味の鋭いウォッカベースのカクテルです。カミカゼには、ウォッカのほかにホワイトキュラソーとライムジュースが入ります。どうでしょう?サイドカーと似ていますよね。ただ、レシピは多様で、ウォッカの分量を多くして、ホワイトキュラソーを少量加えるだけのものから、サイドカーと同じ割合で作るものまであります。また、スピリタスという95度のポーランドウォッカを使う、まさに自爆かというものもあります。

 ピクニックでは、若干鋭めのレシピでお出ししますが、ご要望に応じます。
もちろん、スピリタスもご用意しています。


ウォッカ 40ml
ホワイトキュラソー 10ml
ライムジュース 10ml



第一話「サイドカー / カミカゼ」

第二話「ミモザ / ブラック・ルシアン」

第三話「コスモポリタン / XYZ」

第四話「モヒート / ジャック・ター」

第五話「ブルドック / アフロディテ」

第六話「マティーニ / アムール」

大阪からの移動の途中、機内アナウンスが「・・・お気軽にお申し付けください」と言っていた。「申し付ける」って何だ?奈津子は、申し付けられたくないし、申し付けたくもない。生まれてこれまで、申し付けたことなんて一度もない。でも、世の中にはキャビンクルーに申し付けたくて仕方のないおじさんもいるんだろうな、とも思う。


 最近、姉がバーでバイトを始めた。三十路に入り、モデルの仕事も厳しいらしく、「仕方ないのよ。生きていくためにはね」なんて言っているものの、酒好きの姉は楽しそうに店の話をする。「時間のあるときに、飲みにおいでよ。」と誘われるが、奈津子は二十歳になるまでは酒を飲まないことにしている。


「あなたも堅いわねえ。私なんて十五歳から飲んでるわよ」
「それってもう人生の半分が酒漬けってこと?」
「酒漬けになったのは、もっと最近。二十歳を過ぎてから」
「全然最近じゃないじゃない。でも、最初に飲むお酒って何がいいかな?」
「最初はやっぱりビールでしょ。グィッと一気に」
「最初って人生で最初って意味だよ。何がいいと思う?」
「ああ、そういうこと。そうねえ、やっぱりかわいらしくミモザとかかな」
「ミモザって?」
「シャンパンにオレンジジュース。まあジュースみたいなものね」
「もっとお酒らしいのがいいな。大人っぽいの」
「子供のくせに何言ってんのよ。でも最初のお酒はうちで飲んでね。店長も喜ぶよ」

 姉がカクテルの本を貸してくれた。自分でも作れるようになるため色々勉強しているらしい。しかし世の中にこんなに酒の種類があるとは知らなかった。カクテルだけでなく、ジンやウォッカにもこんなに種類があるとは。大人になるのは大変なことだと思う。特に酒飲みの大人になるのは。
 テレビ局への移動の車の中でシャンパンのカクテルのページを見ていると、マネージャーが話しかけてきた。


「なっちゃん、どうしたの?そんな気合の入ったお酒の本なんか読んで」
「お姉ちゃんが貸してくれたんです。大人の勉強だって」
「シャンパンカクテルか。なっちゃんにはぴったりかもね」
「お姉ちゃんもそう言ってました。子供ってことでしょ」


 夜、姉の隣の部屋のベッドに入り、奈津子は想像する。初めてバーに行くときのことを。
 誰と行こうか。男はまずいし、やっぱり姉に連れて行ってもらおうか。でも姉がいるとうるさそう。
「店長、この子にミモザ作ってあげてよ」とか、こちらが頼む前から言いそうだ。


 でもやっぱり姉が店にいる日に行こう。シックな黒のワンピースを着て、ピンヒールをはいて、髪をアップにして。時間は十時頃がいい。一人でゆっくりとアンティークの木のドアを開けて店に入る。姉が唖然としている傍らで、店長がにこやかに迎えてくれる。


「いらっしゃいませ。何になさいますか?」
「こんばんは」
奈津子はにっこりと笑う。もちろん申し付けたりなんかしない。
「黒いお酒を。ブラック・ルシアンを頂けますか?」



090910_mimozar.jpgミモザ


本文では、ミモザを子供のカクテルみたいに書いてしまいましたが、それは誤解です(笑)

ミモザは、食前酒の王道。どんなディナーの席でも決して恥ずかしくない、立派な大人のカクテルです。シャンパンにオレンジジュースという飲み口の良さから、あまりお酒の強くない方にもお勧めできるカクテルです。度数もきつくないですしね。

シャンパン若しくはスパークリングワインを使ったカクテルには、ミモザの他、キール・ロワイヤル(カシス)やベリーニ(桃とグレナデン)などが有名ですね。渋いところでは、ヘミングウェイが考案したと言われる「午後の死」というアブサンで割ったものもあります。

ピクニックでは、定番のリキュールを加えたものや、フレッシュなフルーツで割ったものなどお好みのシャンパンカクテルをご用意しています。是非、童心に帰って注文してみて下さい。


フルートグラス
オレンジ・ジュース 1/2
シャンパン 1/2





090910_black.jpgブラックルシアン


バーでコーヒーを飲む方はあまりいらっしゃらないと思いますが、コーヒー好きにお勧めなのがこのブラックルシアンです。
コーヒーリキュールとウォッカをステアしただけのシンプルなカクテル。
度数は結構あるので、グイグイと飲むのは危険ですが、口には本当に甘くまろやかに入ってきます。少し脂っこい食事の後に、デザートカクテルとして召し上がるのもお勧めです。

こちらも変形版があり、テキーラベースのブレイブ・ブルやブランデーベースのダーティ・マザー、生クリームを加えたホワイト・ルシアンといったカクテルもあります。

コーヒーリキュールといえば、当然カルーアが一番に出てきますが、天邪鬼のピクニックではカルーアではなくイタリア産のエスプレッソリキュールを使ってお出しします。より濃厚な味わいが、このカクテルの落ち着き、深さを更に増していると自負しています。でも、なっちゃんにはちょっときつすぎるのではないかと心配ですね。


ウォッカ 40 ml
コーヒーリキュール 20ml



第一話「サイドカー / カミカゼ」

第二話「ミモザ / ブラック・ルシアン」

第三話「コスモポリタン / XYZ」

第四話「モヒート / ジャック・ター」

第五話「ブルドック / アフロディテ」

第六話「マティーニ / アムール」

最初に目に入ったときは、「指輪だ」と奈央は思った。
入り口側のソファ席。オレンジと白のソファが向かい合わせに置いてある。
彼氏が仕事の仲間を連れて店に来てくれていて、今さっき帰ったところだ。
グラスや皿を片付け、テーブルを拭いているときに、オレンジ色のソファの足元に落ちているのを見つけた。
でも、手に取ってよく見ると、ピアスだった。クロスしたシルバーの、人差し指にちちょうど合うくらいの
リング状のピアス。
どうしたものか、と考えていると、「どうしたの、奈央ちゃん」と麗さんが声をかけてきた。
麗さんはこの店の経営者の一人だが、金曜日だけサロンを巻いて店を手伝っている。

「ピアスの落し物です。彼氏の友達のだから、今日帰って彼氏に渡すのがいいのか、店に預けておくのがいいのか、と思って」
「女の子の連絡先は、店でわかるの?」
「今日初めてだし、名刺ももらってないのでわからないと思います」
「じゃあ、持って帰って、彼氏に連絡してもらえば。多分、その方が早いよ」
「そうですね。そうします」

 
 帰りの日比谷線の中で、ピアスを落としていった女のことが頭に浮かぶ。
私よりも多分年下だ。けど大人っぽく見える。
無口なようだが、決して地味ではない。赤いカクテルを飲んでいた。確かコスモポリタン。
そのカクテルの赤と彼女のリップの赤が妙に目に焼きついている。

 
 都立大学駅の近くのマンションの部屋に帰ると、彼氏はまだ帰っていなかった。
あれから、また飲みに行ったのか。仕方ないなあ。
奈央はベッド脇のサイドテーブルにピアスを置いて、先に寝る。

 朝になっても、彼氏はまだ帰って来ない。携帯に電話をするが圏外だ。
酒はあまり強くないので朝まで飲んでるってことはないだろう。
でも、不思議なことに不安な気持ちはまったく起こらない。
薄いもやみたいなものが胸の奥にあるだけだ。

 夕方、もうすぐバイトの時間なので、着替えて化粧をする。鏡の片隅で、ふとサイドテーブルの小皿にいれておいたピアスが目に入った。
立ち上がり、ピアスを手に取る。何も考えないまま、トイレに歩いて行くと、便器にポトンと落とし、
一気に流してしまった。
頭の中で何かがカチッと動き、胸の奥のもやがなくなった。

 店につくと店長が困ったような顔で話しかけてきた。
「昨日、奈央ちゃんの彼氏が連れてきてた女の子、ピアス落としていったらしくてさ。
さっき、電話があって探したんだけど、見つからないんだよね。奈央ちゃん知らない?」
「いや、知りませんよ。片付けたときはなかったです」
「そうか、じゃあどこか他で落としたのかな」

 早い時間のお客さんが帰って、洗い物をしているとき、店長に聞いてみる。
「そういえば、昨日うちの彼氏、何飲んでました?」
「ずっとビール飲んでたけど、最後にカクテルを飲んでたなあ」
「なんてカクテル?」
「XYZ。これで終わりって意味のカクテル。結構強いよ」

家に帰る。マンションの前に立つと、奈央の部屋の明かりが点いている。帰ってきたんだ。
でも、なんで帰ってきたんだろう。もう終わってるはずなのに。



cosmo.jpgコスモポリタン


赤い色のカクテルと言えば、真っ先に思い浮かぶのがコスモポリタンです。
ウォッカをベースにホワイト・キュラソー、クランベリージュース、ライムジュースを加え、シェイクしてお出しします。程よい酸味と甘みのある、非常に口当たりのよいカクテルですが、逆に言えば、あまり個性のない味とも言えるかもしれません。
その色と、飲み口の良さから、女性に人気のお酒です。 ドラマ「Sex and The City」の中で、キャリーが いつも飲んでいますね。
カウンターで女性が一人、コスモポリタンを飲んでいると、ついつい目がいってしまうのは私だけでしょうか?

ウォッカ 30ml
ホワイト・キュラソー 10ml
クランベリージュース 10ml
ライムジュース 10ml



xyz.jpgXYZ


かっこい い名前です。映画「野獣死すべし」の中で松田優作さんが、刑事の頭に銃を突きつけながら、このカクテルの話をします。これで最期だっていう意味ですね。実際にこの名前がつけられた由来は、よくわからないのですが、「最後の締めとして飲むにふさわしいカクテル」という意味や、「これ以上はない最高のカクテル」という意味もあるようです。ホワイトラム、ホワイト・キュラソー、レモンジュースをシェイクしたもので、甘さの中にも切れ味のあるハードボイルドなカクテルです。実は、第一話でご紹介したサイドカーの変形版で、ブランデーをラムに代えればXYZになります。どなたにもお勧めできる間違いのないカクテルです。是非一度お試しください。

ホワイトラム 30ml
ホワイト・キュラソー 15ml
レモンジュース 15ml


第一話「サイドカー / カミカゼ」

第二話「ミモザ / ブラック・ルシアン」

第三話「コスモポリタン / XYZ」

第四話「モヒート / ジャック・ター」

第五話「ブルドック / アフロディテ」

第六話「マティーニ / アムール」

 「サリュートォーーッ!!」

これで三杯目のテキーラ・ショットガンだ。

塩を舐め、一気にショットグラスを飲み干して、ライムを噛み千切る。
最初は普通におとなしく飲んでいるのだが、いつも何故か途中からこうなる。
食品メーカーの開発チームは、久美が上から三番目、下からも三番目の五人編成で、
男三人、女が二人、もう一人の女の子のハルちゃんは今年入社したばかりの生娘で、大酒飲みだ。

「久美さん、今日もいっちゃってますねぇ」一つ年下の大橋君が言う。
「そうかな? もう、いっちゃってる?」
「大橋さん、久美さんはこんなもんじゃないっすよ。まだまだです」ハルちゃんが言う。
「でも、久美さん、明日も会社ありますからね」と大橋君がクールに言うので、
「明日? 明日のことなんて知らないわよ」と答えておく。

この店には、先週も大橋君と飲みに来た。
チームのボスと店長が昔からの知り合いらしく、4月のオープン直後からよく使っている。
残業のあと、恵比寿までの電車の中で、晩御飯でも食べて帰りますか、と大橋君が誘ってくれたので、広尾で降りた。

店長お勧めのチーズやバーニャカウダをつまみながら、モヒートを飲む。

「久美さん、モヒートなんてかわいいものも飲むんですね」
「モヒートってかわいらしいかな。結構男っぽいと思うんだけど」
「いや、度数が低いでしょ。久美さん、いつももっと男前なやつ飲んでるじゃないですか」
「男前って・・・私も一応未婚の美人OLなんだけどねぇ」
「久美さん、最近恋とかしてます?」
「してるよ。電車にいい男が乗ってるとすぐに恋する。二度と会えないけど」
「やっぱりね」
「何がやっぱりよ。大橋くんはどうなの?彼女は元気?」
「別れちゃったんですよ。誰か良い人います?」
「ハルちゃんなんかどう。かわいいし酒飲みだし」
「んー、ちょっと違うんですよね。自分がおとなしいから、もっと引っ張っていってくれる人みたいな。まあ、ある意味久美さんみたいなのかな」
「おっ、口説いてる。それで?」
「やめてくださいよ。久美さんじゃなくて、久美さん「みたい」ですよ」
「あっそう。まあ、いいからいいから」

「大橋くん!酒がないよ」
ショットガンは結局五回になり、久美のレベルもファイブまで上がっている。
「久美さん、もうそろそろにしましょうよ。明日も仕事だし、先輩もハルちゃんもみんな帰っちゃったじゃないですか」
「えぇー、そうなの。もう終わりかぁ。じゃあ、シメのやつだ。ジャック・ターくださーい」
「久美さん、ジャック・ターが締めですか。ホントかっこいいなあ」

「じゃあ久美さん、大丈夫ですね。頑張って帰ってくださいよ。明日、会えるといいですね」
店の前で大橋君が見送ってくれた。

タクシーの中、浮かれ気分の頭でさっきの言葉を思い出す。
「明日会えるといいですね、か」
一人にやつきながら久美も思う。そうだね、明日会えるといいね。



Mojito.jpgモヒート


 皆さん、よくご存知のモヒートです。最近のモヒートブームは、何がきっかけなのでしょう?ピクニックでも、多くのお客様にご注文いただいています。ラムとライムジュースにミント、クラッシュアイスの組み合わせが、何ともリゾートマインドを刺激してくれます。
 ピクニックのメニューにはモヒートの専用コーナーを設け、ノーマルバージョン、フルーツバージョン、お酒をアレンジした変形バージョンなど色々なモヒートをご用意しています。中でも店長オリジナルのピクニック・モヒートは、ゴールドとダークの二種類のラムを使い、シェイクした上でビターをたらします。ノーマルのものに比べ、ミントの香りが際立ち、ラムの濃厚な味わいも楽しめます。もちろん、モヒートの爽快さはそのままですよ。モヒート好きの皆さん、是非お試しあれ。

ウォッカ 30ml
ラム 45ml
ライムジュース 15ml
シロップ 1tsp
ソーダ
ミント



jacktar.jpgジャック・ター


 ジャック・ターをご存知の方は、かなりお酒の好きな方でしょう。ある意味必殺。飲み口と度数のアンバランスさには驚きを禁じ得ません。あのロンリコ151ラムとサザン・カンフォート(桃のリキュール)、ライムジュースにミントを加えクラッシュアイスでお出しします。ロンリコは度数75.5度、ライムジュースでしか割らないので、軽く30度以上はあります。
 お気づきの方がいらっしゃるかもしれませんが、ジャック・ターとモヒートは大変よく似たレシピです。X指定とR指定といったところでしょうか。さわやかな口当たりに惑わされて、ガブガブといくと危険ですよ!?
 このカクテルは日本産で、横浜の有名な老舗バー「ウィンドジャマー」で考案されたものです。ピクニックでは、オリジナルに敬意を払いつつ、お酒好きの皆様にお出ししています。

ロンリコ151 20ml
サザン・カンファート 20ml
ライムジュース 20ml
ミント


第一話「サイドカー / カミカゼ」

第二話「ミモザ / ブラック・ルシアン」

第三話「コスモポリタン / XYZ」

第四話「モヒート / ジャック・ター」

第五話「ブルドック / アフロディテ」

第六話「マティーニ / アムール」

8席ほどのカウンターには菜乃花の他に客はいない。

小さなため息をつくと菜乃花はたいして吸いたくもないメンソールのタバコに火をつけた。

頼んだブルドックは飲み頃をすぎ、溶けた氷がグラスの中で黄色と透明の層をつくっている。

視点をメンソールからゆっくりとグラスに移しながら
やはり自分はひとりで飲むスチュエーションに慣れていないのだ、 と感じる。

元々お酒が好き、というよりは雰囲気に酔いたいタイプだったし、
お酒は菜乃花にとって大切な相手との会話を楽しむ小道具みたいなものなのだ。


アンティークの木の扉が開いて男女のグループが入ってきた。

「明けましておめでとう 今年ものむよぉ!」

その賑やかさからから何軒か店を梯子してきた様子がうかがえる。
女性ふたりはかなり酔った様子だ。


菜乃花はふいにほんの二週間前に交わした寛との会話をおもいだす。

たしかエスニックが食べたい、という菜乃花のリクエストで西麻布の
裏路地にある一軒家のレストランへいった後、このバーへきたのだった。

「今度の週末だけどさ」

寛の視線がそれまで注がれていた菜乃花の目から少しそれる。

「仕事が入っちゃって悪い、いけなさそうなんだ。」

「え?」

ずっと楽しみにしていた箱根への旅行.....
なかなか週末一泊という予定があわずにやっと実現したのに。

急に何かがこみあげてくるのを必死でこらえながら
気持ちをつたえようとするが、言葉にならない。

「ごめん ほんとごめんな」

とっさに嘘だ、とおもった。

いつもより慎重に選んでいる言葉と
ほんの少しだけぎこちない間のとり方で、それがわかる。

「そうなんだ」

それ以上言葉がでてこない。気持ちとは裏腹に涙もでない。

今までもそうだったように彼は気持ちをストレートに表現するのが苦手なのだ。


あれから寛は曖昧なメールを二回程よこし連絡してこなくなった。

いっそのこともう好きじゃない、とはっきりいわれたほうがどんなに楽か。


後方のソファ席では先ほどのグループ客の男性がひとり水割りをのんでいる。
つれの女性達はすでに帰ったようだ。

視線の先にボウモアの水割りを持つ男性の手がとまり、菜乃花はふとほほ笑んだ。

男性の手はとても繊細で、装飾の美しいそのグラスと調和がとれており美しかったのだ。


「私の好きになる男性はなぜか皆、手が綺麗なの。
 なんていうのかな、甲と指の長さ、骨格や色つやすべてのバランスが完ぺきというか。
 寛の手もやっぱりその感じなんだよね。」


出逢った頃、アルコールがまわると彼の手を取りそんな言葉を口にしていたっけ。

あの頃はほんとうに幸せだったな。


遠回しに別れを切り出されたときにはでてこなかった涙がふいにこみあげてくる。

私は今でも寛の手をおもいだしただけてこんなに切なく悲しくなるのだ。

あいにく店のスタッフは男性客とのおしゃべりに夢中で涙に気付いた気配はない。

悲しくて寂しい、という事実をうけとめたからか少しずつ気持ちは楽になり
同時に自分はどうしようもなく女なのだな、と痛感する。


「店長、なにか女らしいカクテル、みたいなのつくってもらえますか」


やさしく微笑んだ店長が運んでくれたのは「アフロディテ」。

アフロディテとはギリシャ神話で「ヴィーナス」を意味するらしい。
ネーミング・色合い、ともに女性にふさわしいカクテルのひとつだ。

そして初めて寛とこの店に来たときに頼んだカクテルでもある。


 今夜は自分の気持ちと向き合えた私に乾杯しよう。

美の女神のカクテルをゆっくりと味わいながら菜乃花はバーで一人で飲むのも悪くないな、と感じ始めていた。



Mojito.jpg ブルドック


 日本では ブルドッグ というと、塩 なしソルティドッグのことを指す場合が多いですが、
海外ではスクリュードライバーのジンジャーエール割もメジャーのようです。
ロックグラスの淵に塩をつけるだけで呼び名も変わるのがカクテルの楽しいところですね。
アルコール度数も低めでビタミンも採れる、まさに女性にオススメのカクテルです。

ウォッカ 30ml
パンペルムーゼ 15ml
グレープフルーツジュース 60ml



jacktar.jpg アフロディテ


 沖縄のとあるホテルのオリジナルカクテルです。
愛と美の女神、“アフロディテ”の名を冠すに恥じない品のあるカクテル。ロゼワインをベースに、木いちごの風味やライムジュースなどが加わったまさに女性が好みそうなカクテル。
口の中で広がるまろやかさを、じっくり楽しみながら飲みたいですね。



ロゼワイン 30ml
ルジェ クレーム ド フランボワーズ 12ml
ホワイトキュラソー 12ml
フレッシュライムジュース 6ml


第一話「サイドカー / カミカゼ」

第二話「ミモザ / ブラック・ルシアン」

第三話「コスモポリタン / XYZ」

第四話「モヒート / ジャック・ター」

第五話「ブルドック / アフロディテ」

第六話「マティーニ / アムール」


「いいお店だね。」二次会で隣の席に座った男が話かけてきた。

たしかに素敵なバーだ。

8席ほどのカウンターにソファ席がふたつ。アンティークの家具がほどよくなじんだ

店内はとても心地よくなんだかはじめて来た感じがしない。

今日の幹事役がバーの店長と知合いらしく

オススメといって出された菖蒲色のカクテルはとても美味しかった。

カウンターにはカップルが一組、馴れ合いの仲なのかお互いに携帯電話をずっといじっている。

美穂はふいに一次会のレストランでのことを思いかえした。


タパスとワインが売りのその店で美穂は窓際のテーブル席に坂本を見つけた。

坂本は妹の千里がかなりいれあげている彼氏で、広告代理店に勤めている。

仕事もできるらしく、いつも笑顔を絶やさない好青年なのだが、隙のなさすぎるところが

美穂はあまり好感がもてなかった。

「ここ最近彼が忙しくてぜんぜん逢えていないの」

そんな愚痴をきかされた矢先だったが久しぶりにデートにこぎつけたらしい。

妹は化粧室にでもいったのか、のみかけのマティーニグラスが置いてある。

軽く声でもかけようと立ち上がった瞬間、坂本の隣にもどってきたのは見知らぬ女性だった。

美穂はあわてて席に戻るとそっと様子を伺った。

女性は30代半ばくらいだろうか。

仕立てのよいシンプルなワンピースから

すらりとカタチのいい脚がのぞいている。

肩にふわりとかかった黒髪もエキゾチックな彼女の顔立ちを更に美しく見せていた。

くつろいだ感じからふたりが単なる同僚仲間ではないのが伝わってくる。

女性をエスコートする坂本がいつもり男らしく、素敵にみえて

美穂の胸がチクリと痛んだ。

姉として妹に伝えるべきだろうか.....

あいにく先に店をでたのは彼らだったので美穂に気づいた気配はない。


玄関でブーツを脱ぐと妹の千里がリビングから声をかけてきた。

「おかえり 合コンはどうだった?」

合コンという言葉の響きに少し嫌悪感がともなう。

「予想通りってかんじ。ヨガ休んでいくほどでもなかったよ。」

「オネエももう30過ぎたんだから選り好みしてる場合じゃないよ」

それには答えずに美穂は切りだした。

「今日二次会でいった西麻布のバーがすごくいい感じなの、こんど行ってみない?」

メイクを落とした千里は年齢よりもかなり幼くみえる。

「西麻布のバーって響きがいかにもって感じでいいね。」

あのゆったりとした杉の木のカウンター越しに妹のためのアムールを注文しよう。

愛という名のカクテル。

ビターズの苦みが彼女を少しだけオトナにしてくれるかもしれない。

姉としてできることはそんなこと。

そう、彼の心をとりもどせるかどうかは彼女次第なのだ。



martin.jpg マティーニ



 ご存知カクテルの王様。ジンをベルモットで割って作りますが、ベルモットの量が少ないほど辛口で、しかも辛口であるほど良いとされているカクテルです。
究極のドライではベルモットのビンを眺めながらジンを飲む....なんて小話までありますが、このいかにも男性的なマティーニをスマートにかつ美しく飲むことのできる女性がいたら、かなり魅力的ですね。

ドライジン 45ml
ドライベルモット 15ml



martin.jpg アムール


愛という名にふさわしい情熱的な色彩のカクテル。酒精強化ワインのひとつであるシェリーのスイートと薬草風味のベルモットによるスッキリとした味に、アンゴスチュラ・ビターーの苦味が効いたカクテルです。日本生まれのカクテルであるバンブーはこのレシピに似ていますが、辛口のドライ・シェリーが用いられます。


シェリー 30ml
ドライ・ベルモット 30ml
アンゴスチュラ・ビターズ 2dash
レモンピール 適量


第一話「サイドカー / カミカゼ」

第二話「ミモザ / ブラック・ルシアン」

第三話「コスモポリタン / XYZ」

第四話「モヒート / ジャック・ター」

第五話「ブルドック / アフロディテ」