大阪からの移動の途中、機内アナウンスが「・・・お気軽にお申し付けください」と言っていた。「申し付ける」って何だ?奈津子は、申し付けられたくないし、申し付けたくもない。生まれてこれまで、申し付けたことなんて一度もない。でも、世の中にはキャビンクルーに申し付けたくて仕方のないおじさんもいるんだろうな、とも思う。
最近、姉がバーでバイトを始めた。三十路に入り、モデルの仕事も厳しいらしく、「仕方ないのよ。生きていくためにはね」なんて言っているものの、酒好きの姉は楽しそうに店の話をする。「時間のあるときに、飲みにおいでよ。」と誘われるが、奈津子は二十歳になるまでは酒を飲まないことにしている。
「あなたも堅いわねえ。私なんて十五歳から飲んでるわよ」
「それってもう人生の半分が酒漬けってこと?」
「酒漬けになったのは、もっと最近。二十歳を過ぎてから」
「全然最近じゃないじゃない。でも、最初に飲むお酒って何がいいかな?」
「最初はやっぱりビールでしょ。グィッと一気に」
「最初って人生で最初って意味だよ。何がいいと思う?」
「ああ、そういうこと。そうねえ、やっぱりかわいらしくミモザとかかな」
「ミモザって?」
「シャンパンにオレンジジュース。まあジュースみたいなものね」
「もっとお酒らしいのがいいな。大人っぽいの」
「子供のくせに何言ってんのよ。でも最初のお酒はうちで飲んでね。店長も喜ぶよ」
姉がカクテルの本を貸してくれた。自分でも作れるようになるため色々勉強しているらしい。しかし世の中にこんなに酒の種類があるとは知らなかった。カクテルだけでなく、ジンやウォッカにもこんなに種類があるとは。大人になるのは大変なことだと思う。特に酒飲みの大人になるのは。
テレビ局への移動の車の中でシャンパンのカクテルのページを見ていると、マネージャーが話しかけてきた。
「なっちゃん、どうしたの?そんな気合の入ったお酒の本なんか読んで」
「お姉ちゃんが貸してくれたんです。大人の勉強だって」
「シャンパンカクテルか。なっちゃんにはぴったりかもね」
「お姉ちゃんもそう言ってました。子供ってことでしょ」
夜、姉の隣の部屋のベッドに入り、奈津子は想像する。初めてバーに行くときのことを。
誰と行こうか。男はまずいし、やっぱり姉に連れて行ってもらおうか。でも姉がいるとうるさそう。
「店長、この子にミモザ作ってあげてよ」とか、こちらが頼む前から言いそうだ。
でもやっぱり姉が店にいる日に行こう。シックな黒のワンピースを着て、ピンヒールをはいて、髪をアップにして。時間は十時頃がいい。一人でゆっくりとアンティークの木のドアを開けて店に入る。姉が唖然としている傍らで、店長がにこやかに迎えてくれる。
「いらっしゃいませ。何になさいますか?」
「こんばんは」
奈津子はにっこりと笑う。もちろん申し付けたりなんかしない。
「黒いお酒を。ブラック・ルシアンを頂けますか?」

本文では、ミモザを子供のカクテルみたいに書いてしまいましたが、それは誤解です(笑)
ミモザは、食前酒の王道。どんなディナーの席でも決して恥ずかしくない、立派な大人のカクテルです。シャンパンにオレンジジュースという飲み口の良さから、あまりお酒の強くない方にもお勧めできるカクテルです。度数もきつくないですしね。
シャンパン若しくはスパークリングワインを使ったカクテルには、ミモザの他、キール・ロワイヤル(カシス)やベリーニ(桃とグレナデン)などが有名ですね。渋いところでは、ヘミングウェイが考案したと言われる「午後の死」というアブサンで割ったものもあります。
ピクニックでは、定番のリキュールを加えたものや、フレッシュなフルーツで割ったものなどお好みのシャンパンカクテルをご用意しています。是非、童心に帰って注文してみて下さい。
フルートグラス
オレンジ・ジュース 1/2
シャンパン 1/2

バーでコーヒーを飲む方はあまりいらっしゃらないと思いますが、コーヒー好きにお勧めなのがこのブラックルシアンです。
コーヒーリキュールとウォッカをステアしただけのシンプルなカクテル。
度数は結構あるので、グイグイと飲むのは危険ですが、口には本当に甘くまろやかに入ってきます。少し脂っこい食事の後に、デザートカクテルとして召し上がるのもお勧めです。
こちらも変形版があり、テキーラベースのブレイブ・ブルやブランデーベースのダーティ・マザー、生クリームを加えたホワイト・ルシアンといったカクテルもあります。
コーヒーリキュールといえば、当然カルーアが一番に出てきますが、天邪鬼のピクニックではカルーアではなくイタリア産のエスプレッソリキュールを使ってお出しします。より濃厚な味わいが、このカクテルの落ち着き、深さを更に増していると自負しています。でも、なっちゃんにはちょっときつすぎるのではないかと心配ですね。
ウォッカ 40 ml
コーヒーリキュール 20ml